日本では長らく缶詰以上に保存できる食品包装材は考えられませんでしたが、缶詰にも様々な欠点がありました。特に缶切りという道具が必要であることは現代人にとって大変面倒で、容器の重さも相俟って、扱いに困る人が少なくなかったのです。缶詰は元々軍人の食事に利用されていましたが、軍関係者の間でもさらに便利な包装材を開発すべく、研究が重ねられました。その結果、缶詰より遥かに軽い容器が発明されたのです。それが現在広く流通している「レトルト」でした。レトルトはプラスチックフィルムとアルミニウム箔を重ねて作り上げたもので、缶詰のように密封、加圧殺菌、加熱殺菌を実施できる優れものです。
「レトルト」の語源は、蒸留、乾留に関連する実験器具を意味する英語ですが、この実験器具の仕組みが高圧殺菌釜のそれに似ていることから、新しい容器の名として冠されることになりました。つまり新容器は、厳密には「レトルトの方式で殺菌処理されたプラスチックの袋」と言えるものであり、日本で現在使われる「レトルト食品」なる言い回しにもそのような背景があるのです。レトルト食品という言葉が独り歩きし始めてからは、日本缶詰協会も自主規制に乗り出すこととなりました。言葉の定義が明確でない以上、消費者としては不安を振り払うことが出来ないからです。同協会では業界におけるレトルト食品の製造管理の統一を図り、表示方法も分かり易くすることを目標に掲げました。